性ホルモンが骨に及ぼす影響

GID/MTFにおいて、短期間のホルモン治療と影響については、いくつかの報告がされているが、長期のホルモン治療となると報告がほとんどない。100人のGID/MTFを対象とし、性適合手術(SRS)後、平均10年間のホルモン療法を行っているものを対象とした。

GID/FTM・MTFにとって、治療における骨の健康についても関心事の1つである。しかし、研究がほとんどない。ホルモン治療しているすべてのGID/FTM・MTFにおいて、性ホルモン治療を行っていても骨密度を維持していた。おそらく、テストステロンが直接骨に作用している、または、間接的に作用しているのかもしれない。それは、テストステロンの女性化によりエストラジオールに変換されるからかもしれない。

反対に他の研究では、GID/MTFでは、骨粗しょう症や骨軟化を高い頻度で引き起こしている報告がある。しかしながら、その報告では、ふつうの人のデーターを基準を参考にしているため、骨粗しょう症の発症率が高くなってしまうのかもしれない。

GID/FTM・MTFすべてのひとが、骨量、サイズに影響する二次性徴を経験している。一般的にふつうの人のデータを参考にして、それを基にホルモン治療などが推奨されている。

ふつうの男性(コントロール)とGID/MTFとの比較で、骨の健康のデータは、いろいろなところで広く述べられている。様々な骨粗しょう症の原因は、他の施設に比べ、骨粗鬆症の数がただ単にかなり多いからと説明できるかもしれない。

1つ目に、可能性がある。他のエストロゲンを使わずにcyproterone acetateだけ1年間フルに使っていた。cyproterone acetateは、テストステロンのレベルを下げ、骨密度を減らすような作用があったかもしれない。

以前に報告された、前立腺がんを治療しているケースでは、アンドロゲン(男性ホルモンの総称)を抑える治療では、骨密度が減るとされている。さらに、アンドロゲンを抑えて治療していたひとは、アンドロゲンを抑える治療をしていないひとに比べ、骨折のリスクが高いことが示されていた。cyproterone acetateの治療は、重度な骨減少に関係しているのかもしれない。

2つ目。現在のところ、統計を取るうえで、横断研究(cross-sectional study)なので、肉体的活動性、身長、カルシウム摂取の有無などを排除できないため、当事者の基礎になるものが異なる。肉体的活動性の国民性の違いもあるかもしれない。
※横断研究:ある一時点のデータの収集をし、解析する研究をいう。調査は、1回だけ行われる研究。過去、未来のことは一切調べない。

最後。低いエストロゲンレベルと高い濃度の性腺刺激ホルモンは、不適当な女性ホルモン化を起こす。むしろ、高いSHBG(※)と不十分な治療により引き起こされるホットフラッシュのような臨床的症状がない。

※SHBG
性ステロイドホルモンの生物学的作用を評価するために,総ホルモン値とともに調べたいときに測定する。たとえば,多毛症の一部症例では,SHBGが低いため,遊離テストステロンが増加することが考えられていて,抗アンドロゲン作用を有するゲスタゲンとエストロゲンの合剤の投与するとSHBGの産生を増やす効果がある。

骨代謝マーカーが正常だったのは、骨代謝の増加によって特徴づけられる骨減少を伴う活動性のエストロゲン欠乏を示唆するものではない。cyproterone acetateだけの治療と他のエストロゲンを加えたcyproterone acetateとの治療を比較すれば、これらの影響(肉体的活動の度合い、身長、カルシウムの摂取の有無)が骨粗鬆症の度合いに関係しているかわかるかもしれない。

※cyproterone acetate…日本では販売されていない薬。海外では、「アンドロキュアー」という製品で販売されている。抗アンドロゲン作用がある。

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今回の海外医学論文は…
Long-Term Evaluation of Cross-Sex Hormone Treatment in transsexual Persons
J Sex med 2012;9:2641-2651 (bone)