GID/MTFの女性ホルモン治療に関してのアメリカの論文は少なく、ヨーロッパの医学論文が多いです。
また、治療に使う薬も、その国によって認可されている薬も若干違います。今回は、アメリカの論文の紹介です。
GID/MTFの女性ホルモンの薬の違いによる静脈血栓の頻度
自認する性と同じホルモン治療をすることは、性同一性障害GIDにとって、二次的な性に発展し、性自認が身体と一致していきます。そして、本来の性から分泌されるホルモンも減少していきます。
深部静脈血栓は、女性ホルモン(エストロゲン)治療の影響によるもっとも深刻な合併症の1つです。エストロゲン濃度が高いレベルだと生じやすいとされます。
GID/MTFの女性化を早くに促す女性ホルモンは、エチニール・エストラジオールであるが、最近よく使われている17βエストラジオールに比べて、リスクが有意に高くなります。
ヨーロッパではよく使われているエチニール・エストラジオール、cyproterone acetate(以下サイプロトロン)が含有されたエストラジオール、ハイドロキシプロゲステロンの合成誘導体は、アメリカでは認可されていません。
1997年のオランダの報告によると、女性ホルモン治療の6.4%のMTFが、深部静脈血栓を生じています。しかし、この研究の対象者は、ほとんどがエチニール・エストラジオールを使用していました。
ベルギーの研究によると、5.1%の深部静脈血栓を生じ、これらは皮膚吸収性の女性ホルモンとサイプロトロンが含有されたエストラジオールの使用でした。
オーストラリアのMTFに使用された女性ホルモンの研究では、サイプロトロンが含有されたエストラジオールの皮膚吸収薬のみとフェナステリドを64±38か月使用しても、162名中、誰も深部静脈血栓になったものがいなかった、と報告しています。
これらの結果から、閉経後の女性の研究の結果と同様に、エストラジオールの皮膚吸収薬の使用は、深部静脈血栓のリスクが増大することはありません。
アメリカでは、エストラジオールの皮膚吸収薬を、MTFには使われていません。なぜなら、テストステロン分泌抑制し、エストラジーオールの血中濃度を保つことのできる抗アンドロゲン薬のスピロノラクトンが含有された皮膚吸収薬があるからです。
そして、アメリカにおいては、エストラジオールの皮膚吸収薬が効き目が弱いのは、サイプロトロンが含有されていないからでしょう。
サイプロトロンは、中枢抑制によりテストステロンを70~80%にまで減少できる男性ホルモンをもっとも効果的な薬の1つです。
また、サイプロトロンは、子宮内膜症に使われることで知られる、最も効果があるプロゲスチン(合成されたプロゲステロン)である。サイプロトロンは、プロゲステロン(天然型)の1000倍、メドロキシプロゲステロンの3倍の効能があります。
サイプロトロンのようなプロゲスチンは、生物学的女性の乳房の組織に似させるために必要な薬でもあります。このように、ヨーロッパでは、女性化するための標準的な女性ホルモン治療としては、サイプロトロンが含有されているエストロゲンが専ら使用されています。
アメリカでは、女性化のための女性ホルモンについての深部静脈血栓のリスクの評価したものがありません。抗男性ホルモンのスピロノラクトンと飲み薬のエストラジオールでしか評価できません。
アメリカとヨーロッパとの間に使用されるレジメによって、深部静脈血栓のリスクが異なるかははっきりしません。従来から報告されている閉経後の女性においての深部静脈血栓と肺梗塞は、エストロゲン治療よりエストロゲンとプロゲスチンの合成剤に高い頻度を生じると言われています。
アメリカの治療では、プロゲスチンが製剤に含まれないので、ヨーロッパで使われるエストラジオール・サイプロトロンに比べ、深部静脈血栓の頻度は低いと考えられています。
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☞今回の海外医学文献
Incidence of Venous Thromboembolism in Transgender women Receiving Oral Estradiol
J Sex Med 2016;13:1773-1777