MTFの女性ホルモン治療は、血栓リスクを高めるのか?
性同一性障害のMTFのホルモン治療はたいていエストロゲンが使われる。たまに抗男性ホルモンも使われる。これらは、静脈血栓塞栓症の発症のリスクを伴う。静脈血栓塞栓症は、たいていエストロゲン治療開始1年以内に発症することが多い。
エチニル・エストラジオールは、静脈血栓をもっとも起こしやすいとされている。(2003年に認定) それ以来、ほとんどのクリニックでは、エチニル・エストラジオールは使われていない。
専門医が関与しないホルモンを内服している人たちは、エチニル・エストラジオールを含むピルを内服して、しかも過剰気味のひとも多い。手術前には血栓防止のため、エチニール・エストラジオールを中止すると、深部静脈血栓塞栓症の発症リスクを減らすことができる。その他の経口エストラジオールでも過剰投与すべきでなく、経皮エストロゲンの方が望ましい。
大きい手術の前には、少なくとも2週間前に中止すべきで、完全に動けるようになってから3週間後に再開する。
従来の報告からのエストロゲン使用による静脈血栓塞栓症の発生率
エストロゲン治療を受けている性同一性障害のMTFの静脈血栓塞栓症の発症率は、早い時期から報告されている。
1976年には肺塞栓、1978年には脳塞栓、1989年には303人のMTFを対象にした報告もされている。経口エチニル・エストラジオール0.1mgとcyproterone acetate100mg をしていたが、何も治療していない人たちに比べて45倍の発症があったと報告している。
発症リスクは、明らかに年齢が関係していて、40才は2.1%以下、40才以上は12%のリスクが認められている。いずれもエチニル・エストラジオールを使用している。
その後の大規模(816人)の報告によると、40才以上の性同一性障害のMTFには、経皮的エストロゲン治療が標準的治療になったが、それでもリスクは20倍だった。 静脈血栓の発症は、エストロゲン治療を始めてから1年以内に発症することが多い。(77%、58%)
経口エチニル・エストラジオール0.1mgとcyproterone acetate100mg を使用していると、活性化プロテインC抵抗性を示すという。経皮エストロゲン使用時には、活性化プロテインC抵抗性の影響は少ない。 経口エチニル・エストラジオールとcyproterone acetateの使用は、プロテインS、凝固阻害剤が低下する。
術後の静脈血栓塞栓症
一般的に手術のためにヘパリンを使うと、術後の静脈血栓塞栓症はまれである。ピルを使用している女性は、妊娠を避けるためにピルを中止しないで手術を行う。このことは、MTFには当てはまらない。性別適合手術(SRS)をする2週間前には中止すべきである。ただし、このことは医学的に立証されてはいない。
静脈血栓塞栓症は、術後日増しにそのリスクは減っていく。何か医学的エビデンスを支持するものはないが、ホルモン治療を再開するのは、3~4週が望ましい。
性別適合手術(SRS)を終えた性同一性障害のMTFは、手術が終わると同時に女性ホルモン治療をすぐに再開したがるが、女性ホルモン治療を再開する前には完全によくなるまで少なくとも3週間は中止しておく方がよい。
女性におけるピルの使用とホルモン補充療法(HRT)のリスク
性同一性障害のMTFで治療される女性ホルモンは、一般女性に使うエストロゲンとプロゲステロンで、ピルまたはホルモン補充療法(HRT)のように平行して使うことが多い。
最近のドイツの大規模な調査では、女性ホルモンを使用している15~49才の静脈血栓塞栓症のリスクは、何も女性ホルモンを使用していない女性の約3倍である。
ホルモン補充療法(HRT)の場合は、最近増えていてリスクは約2倍である。おそらく、静脈血栓塞栓症のリスクのメカニズムは、凝固因子の変化によるものであろう。
ヨーロッパのジェンダークリニックでのエストロゲン治療
推奨され、実際に処方されているエストロゲン
・経皮エストロゲン
・経口エストラジオール 2~4mg/日
性同一性障害のMTFの多くは、ピルを服用し、性別適合手術(SRS)後のメディカルチェックをしに来なくなり、一般女性と同じように処方をたいてい希望するようになる。 ピル使用の静脈血栓塞栓症のリスクは5%以下と低い。
そして、性同一性障害のMTFはたいてい深刻な病気を気にしない傾向にある。実際には死亡率は1%以下である。 エチニル・エストラジオールを使わない他の理由は、40~65才でのピル使用時に比べて心血管系疾患による死亡率が3倍だからである。幸運なことに、現在ではエチニル・エストラジオールを使っていなければ、心血管系のリスクは低い。
性同一性障害・MTFに推奨されるエストロゲン
経皮エストロゲンは、静脈血栓塞栓症のリスクが低い。これは一般女性に使う場合と同じである。 (静脈血栓塞栓症リスク:経口1.9倍、経皮1.0倍)
経皮エストロゲンのリスクは低いが、パッチタイプよりもジェルタイプに起こりやすい。経口薬は多くの場合好ましく、ヨーロッパでは多くがプレマリンが使用されている。
もちろん、一般的な凝固系検査のスクリーニングすれば安全というわけではないし、静脈血栓塞栓症の家族歴が強く疑われる性同一性障害・MTFには、治療制限が必要かもしれない。
最近の40年は、エストロゲン治療している性同一性障害MTFの静脈血栓塞栓症の発症は低くなっている。しかし、一般女性のピルとホルモン補充療法(HRT)をしている人たちに比べるとまだまだ頻度は高い。
いくつか注意をしていれば、ホルモン治療は安全許容範囲内である。本人、家族の静脈血栓塞栓症歴は必ず注意する。エチニル・エストラジオールは使わない。できるだけパッチとジェルを使う。経口エストラジオール2~4mg/日、プレマリン2.5mg/日以内が望ましい。
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Andrologia 2014,46,791-795